いったん交わした契約は反故にできないのだから、
サインをする前に、
考慮すべきことはすべて考慮しておきなさい
契約書にサインした時点で取引が成立するという事実を、
ウォーレンは身をもって学んできた。
いったん署名してしまえば、
もう後戻りはできないし、
良い取引なのか悪い取引なのかを再考することもできない。
だから、サインをする前に、考慮すべき点は
すべて考慮しておく必要があるわけだ。
しかし、これは口で言うほど簡単ではない。
現物の契約書が鼻先に突き付けられたとき、
取引を成立させるということが第一義となってしまい、
しばしば健全な理性を吹き飛ばしてしまう。
重要なのは、署名を行う前に、最悪の事態を想定することである。
なぜなら、最悪の事態になる可能性が低くないからだ。
善意という名の道には、予測可能なトラブルが敷き詰められている。
旅立つ前に熟考を重ねておけば、トラブル対処のために
熟考を重ねる必要はなくなるだろう。
ウォーレンは89歳のローズ・ブラムキンから、
オマハにある〈ネブラカス・ファニチャー・マート(NFM)〉を買い取ったことがある。
これは家具類を扱う大型安売り店で、
一店舗ながらも多大なシェアを持っていた。
買収する際に、ウォーレンは契約書に非競争条項を入れ忘れた。
経営陣に残っていたミセス・ブラムキンは、数年後、店の変わりように激怒し、
〈NFM〉ときっぱり縁を切っただけではなく、〈NFM〉の向かいに新しい家具店を開き
〈NFM〉の商売に大打撃を与えた。
激しい競争にしばらく苦しんだのち、
ウォーレンはとうとう白旗を掲げ、新しい店を500万ドルかっきりで買い取ることに合意した。
二度目の契約のとき、非競争条項をきちんと入れておいたのは、
ウォーレンにとって幸運であった。
何しろ、ミセス・ブラムキンは103歳まで活躍しつづけたのだから。