仕掛けは猫が鼠を捕まえ如くなるべし
この格言は戦前に」刊行された初期の相場図書の多くに収められているが、
1942年(昭和17)年に刊行された野口泰次の『相場道断片』(日本繊維研究)に以下の解説が記されている。
「相場の先生に最も良いのは猫である。猫はネズミを見つけてもすぐに跳びつかないで、
二間も手前からおよび腰から躍進の姿勢を整え、
瞬きひとつしないで満身の注意をネズミ一点に集めて、
ネズミが動かなければ猫も動くことはない。
そばで見ているとねずみが逃げるのではないかとハラハラするが、
猫は慌てないでなん十分でもその姿勢を崩さない。
やがてネズミが一瞬でも西でも東でも動き出せば、
猫は電光石火の勢いで踊り出て見事に捕獲する。
その様は猫がネズミが捕らえたのではなく、
ネズミが猫の手の中に飛び込んだように見える。
猫君のこの動作に相場師を志す者は学ばなければならぬと思う」
相場の神様と称された三種証券の創業者である山崎二種(1893-1883年)は
「ネコが型相場師」の典型で、
実際に丁稚時代に米倉で自分も猫のようにネズミを捕まえて役所に売り、
相場を張るための資金を稼いでいた。
昔は疫病予防のために役所が捕獲したネズミを買い上げてくれたのだ。
このとき二種も猫がネズミをとらえる姿から学んだのか、
その売買タイミングは絶妙で「相場の流れをよく見よ」が口癖だった。
余談だが、飼い猫のツールは古代エジプトで倉庫番として飼われたリビアヤマネコだといわれるが、
江戸の雑学王・貝原益軒(1630-1714年)は、
子(ネズミ)の語源を倉庫などに収めた穀物を盗む「ぬすみ(盗む)」に由来するという。
またネズミには火事や洪水などを察知する予知能力があることを動物学で証明されている。
さらに、七福神の一人・大黒天の使者として人々に富を与えるとされ縁起が良い。
ネコの戦略とネズミの知恵。
動物の行動にも売買テクニックを磨くヒントがある。