眠れぬほど株を持つな
この名言は18世紀後半のウォール街で帝王として君臨したJ・P・モルガン(1837~1913年)が、
塩漬け状態になった株で困っている友人に教えた助言で、
戦前の投資書籍では「思惑違いの株を抱えているのなら、安眠できるまで売り放つべし」と紹介されている。
J・P・モルガンは、1850年代から鉄道などの投機事業で「モルガン王朝」とよばれる金融帝国を築いた投資銀行家で、この格言は19世紀初頭に起きた大暴落で誕生したものだ。
休むも相場と言うように、できれば手遅れにならないうちに自分の所有している株に迷いが生じたときは少しでも売ってみて、それでも楽にならなければ全て売り払って現金化することだ。
景気全般の判断に迷いが生じたときも同様で、定期的にポジションをゼロにすることは多くのプロがやっている。
安眠することにより冷静な判断力が戻ってくる。
これがモルガン直伝の眠れぬ夜を過ごす投資家ための不眠解消法なのである。
しかし、そもそも株の塩漬けは、肉や魚を塩漬けして旨みが増すことに由来する古典的な投資法の一つで、
仕込みのタイミングがよければもっと有効で無難な投資法とされてきた。
前述のモルガンも実は塩漬け投資の名人だったのだが、
おそらくその友人は不安を打ち消すだけの分析力や資金力に乏しかったのだろう。
欧米の塩漬け投資はコロンブスの大航海時代にさかのぼることができるが、
日本でも塩漬け投資は元禄時代から奨励されていて、
当時はかぶの塩漬けはを「買い置き」と言い、
井原西鶴はそのタイミングを「買い置きは世の心の安い時」と解説して、
安い時を狙って進み、しばらく寝かせて上がったときに売り払う「買置き」投資を絶賛した。
周期的な高値と安値の往復切符を持つ銘柄であれば今日でも十分な利益が期待できる古典的投資法の一つなのだ。