株と闘ってはいけませんよ、そうすると逃げます
この言葉は林輝太郎さんの「脱ママ相場師列伝」に登場する相場師
の「銀流し安さん」の名言だ。安さんは兜町でカメラ売りの名人として
知られた相場師で、着るものは通好みの着流しに角帯をキリリを締めた
江戸っ子だ。相場は大阪の相場師は大阪の相場師に学んだが、「あなたも
大学に行ったから判るでしょうが、確かに大学ってところは、物の道理を
教えてくれますよ。しかし、所詮、理屈は理屈ですからねぇ」と、自分が
大学で経済の理屈を学んだことが邪魔になると悔やんでいた。相場格言に
「理屈に負けて相場に勝て」とはこのことを指さすのだろう。「そもそも、
素人は売買の前後はあれこれ研究するが、いざ、実践となると技が追いつかず
自分の買った株を何カ月も放置しておくので”だらし”がない」と安さんは言う。
昔の相場師は理屈とは大袈裟な飾り甲冑に身を包んでいるようなもので、実践
の役に立たないどころか、進退・駆け引きの「邪魔になると言っている。理論
武装な攻撃に使えないのである。世間では「相場に勝ちたい、勝ちたい」ケンカ
腰にトレードをする人もいるが、攻略するべきポイントを外しているから無駄な
売買が多くなる。ボクシングでいえば駄パンチの連打で自殺してしまうのだ。ケンカ
に勝っても一文無しでは意味がない。ヤクザ映画でも殺気を出すのはチンピラだ。殺気
は殺すものなのである。明治41(1908)年に刊行された栗原義秀の「相場格言集」にも、
「株価と闘うな」の一文がある。自分が闘って勝てない相場に手を出しても足を出すだけだという
戒めだ。昔から相場が上手な人は、相場の動きを瞬時に見切って決定的なパンチを最低限の損切りで
かわしている。絶妙の距離感と殺気の封印が安さんの相場の極意なのだ。