待つは仁
『三猿金泉秘録』に出てくる言葉。
「待つは仁、無何有は勇、理のるのは智、半扱商内の妙術と知れ」から来ている。
仁には、おもいやり、いつくしみ、などのほかに、他を思いやり、
己に打ち勝つ徳(人徳、人格、品性)という意味がある。
つまり、待つには自分に打ち勝つ人徳、克己心が必要であり、
そういう能力が備わっていない人は、
チャンスが来るまで待つことができず、慌てて事(投資、投機)を行うため、失敗する、ということだ。
同じ『三猿金泉秘録』の中に、こんな句がある。
「売買を、せけばせくほど損をする、とんと休んで、手をかえてみよ」
(売買を慌てれば慌てるほど損をする。
そんな時には十分休んで、手を変えてみよ)
「下がる理も、時いたらねば下がるまじ、買いぜきするは、大たわけなり」
(相場は下がるのが当然の状況にあっても、
時期が来なければ下がらない。買い急ぎするのは大馬鹿者だ)
「上がる理も、時節が来ねば上がらぬぞ、
せきを買いをして悔やむほどまじきぞ」
(相場は上がるのは当然の状況にあっても、
時節が到来しなければ上がらない。
買い急ぎして後悔してはならない)
まさに「待てば海路の日和あり」でチャンスが到来するまで、
じっくり「待つは仁」というわけだ。
「向かうは勇」とは、チャンスが到来した時に、
積極果敢に挑戦するには勇気がいるということだ。
チャンスとはみんながみんな弱気になっている底を買い、
みんながみんな強気になっている天井圏で売る、ということだから、
それには(みんなと逆のことをするには)非常に勇気が必要、ということだ。
「理のるのは智」とは、
利食いをするには知恵が必要だ、という意味だ。
智とは、知恵、物を知り分ける能力、ということだが、
早く利食いすぎると、儲けが少ないし、
欲張って利食いを先に延ばし過ぎると、利食い損なうことになる。
また、「半扱商内」とは、最初に一〇〇〇両で買った米が一割前後に値上がりしたら、
五〇〇両だけ利食い、値下がりした時に五〇〇両を買い戻して次のの値上がりしても、
残りの玉のように手持ちを玉の半分ずつを売買しておけば、
利食いしたあと値上がりしても、残り玉で楽しむことができる。
つまり、心に余裕を持って投資することができる、というわけだ。